2013年08月21日

「歩く速度」なんですよ、「駆け足」じゃなくて。

『恋するフォーチュンクッキー(以下KFC)』という曲が、いつもとちょっと違う方面で好評な理由を俺なりに考察、なるべく平易に述べてみたいと思います。


AKBに限らず近年のアイドル歌謡、ことにシングル曲は大概、いわゆる『四つ打ち』です。

四つ打ちって、リズムアレンジとしては最も単純。単純だからこそ最も単純にノリやすい、リズム音痴(この言葉ホントはヘンなんですが)な人でも、迷い難い。

個人的には、何でもかんでも四つ打ちってのには食傷気味だし「手抜き」と思ったりもするんですが…つまり、良くも悪くも、制作的にもリスナー的にも一番『楽』ということです。この後者が産業的には重要。言わば最も「万人受け」に近いスタイル、それが『四つ打ち』。

さて『KFC』、これもまた「四つ打ちもの」であり、近来の「万人受け(向け)の法則(方法論)」から外れてはいないのですが…ここ最近の多くとは、ちょっと毛色が違う。

とにかく「速度」が違う。

「四つ打ちもの」って、特に90年代からは「加速」の一途で、実はもう「踊れる」音楽ではなくなってたんです、少なくとも「誰でも」は。

だからディスコが廃れたのか?それとも廃れたから音が変容していったのか?その辺りはここでは触れませんが…とにかく「四つ打ち」は、ディスコで流れるもの、踊るための効用音楽ではなく、カーステレオで流される、言わば高揚音楽に変わっていきました、極論ですが。


もちろん各々好みはありますが、大体にして若年は「スピード感」を好みます。90年代以降の生まれなら、先に述べた「加速」の中で育ってきているから、尚更かもしれません。

若年層=商業音楽・流行歌の中心客層であります(これは時代・世代を超えて変わりません)。およそ彼らに合わせてその時々の音の傾向というのが意識的にも無意識的にも形作られます。

ところが『KFC』は、その「傾向」に逆行したかのような作り。初聴時は俺でさえ「悪い曲じゃないけど(いまどきの)シングル曲としてはやけに地味だな」と感じたくらい。

ところが…例の『スタッフ版MV』を観て「なるほど!」と、漸く気づいたというか、気づかされたんです。

これは「走るため」ではない、「踊るため」の速さ、【老若男女、誰もがノれる】スピードなんですね。90年代どころか、80年代に『ユーロビート』と称されるよりも更に以前の四つ打ちなんです。

【老若男女、誰もがノれる】これが要点だった。サウンド的に明らか「70'sディスコ」と気づいていたにも関わらず、そこんとこに気がつかなかったとは、不覚。振り付けにパパイヤ鈴木氏を起用したのも「なるほど」です。


これが、『駆け足ではなく歩く速度』ってことです。


近ごろ常用・多用される(濫用気味と言ってもいいかもしれない)転調が無いこと、サビの黄金コード進行や、これまたユーロではなくディスコライクな、機械音ではない生音バンド指向サウンド、歌詞の乗っかりが早口じゃない、などなど…他にも要素はありますが、この『速度』が最も貢献度高いと思います、今回の、本当の意味での「万人受け」は。

前にチョロっと書きましたが、『親子で一緒に踊って楽しめる子供番組の1コーナー』の香りがしませんか?あるいは、運動会のフォークダンスとか。「まったり、ゆっくり」なんですよ。

『KFC』は、ここ20年ほど加速の一途を辿ってきた日本音楽業界に、一石を投じたと言っても過言じゃないかもしれない。そしてこれは『歌謡曲』だからこそ出来た芸当でもあるような気がする。「アイドル」と侮るなかれ。

…といったところで最後に、ちょっと私観。

あの音を「古臭い」と一蹴する向きもあるかもしれませんが、それはおそらく、古いものを正対して聴いたことがないか、あるいは、それこそ流行に毒されている(時代に流されている)かなのではないかな?と思います。

本当の『音楽好き』というのは、拘りは持っていても偏見は持っていないものではないでしょうか。

少なくとも、知識で「今更」と思ってしまう人より、体感で「懐かしい」と楽しめている人のほうが、音楽的に幸福だと、俺は思います。




つけ加えるなら『盆踊り』ですな(・ω・)誰もが簡単気軽に踊れる。そういう意味で、当初流れた『音頭』って噂は、あながち的外れでもなかったと。